アポイ岳のヒメチャマダラセセリ

2012.5.13

 北海道には天然記念物の蝶が5種います。そのうちの1種、ヒメチャマダラセセリ。この蝶は様似のアポイ岳に行かなければ見ることが出来ません。

 これまで何度か蝶関係の知り合いに「アポイに行かない?」と誘われた事があるのですが、「う〜ん・・・」と、あまり乗り気にはなれず、一度も行ったことがありませんでした。何で乗り気にならなかったかには訳があります。それはヒメチャマダラセセリを見るには私の嫌いな「登山」をしなければならなかったからです。
 帯広に引っ越してきてすぐに知り合ったFieldさんに誘われて大雪山の黒岳に登ったことがあります。Fieldさんはウスバキチョウなど、大雪山で見られる天然記念物の蝶の撮影に誘ってくれたわけですが、「簡単に登れるから」と言われたのに、実際に登ってみるとエライ大変で、その時以来登山アレルギーみたいのになってしまいました。
 もう「アポイ岳もそんなに大変で無いよ」と言われても全く信じられず、きっと一緒に行っても迷惑をかけるだけだろうなと思うとなかなか乗り気になれなかったのです。
 でも、あと何年かしたら転勤してアポイ岳に簡単に行ける様な地域ではない所に行くかもしれないと思うと、アポイ岳に行きヒメチャマダラセセリに会うのは十勝にいる間に達成しなくてはならない宿題のように感じていました。

 今年は晴天の日がなかなか少なく、5月12日(土)は職場の花見でしたがえらく寒くて凍えながらの焼肉てした。ところが、日曜日は晴れる予報だったので、アポイ岳に行ってみようかなという気が起きてきました。もちろん、蝶関係の人と行くと足手まといになりそうなので、パートナーは妻です。妻を誘ってみて「行く」と言ったら行こうかなという位の感じでした。妻にならわがままを言って、「休憩!」を連発できるかなと思って。
 図鑑などによるとヒメチャマダラセセリの時期は5月下旬くらいかなと思っていたのですが、今回は自分がヒメチャマダラセセリの生息していると言われるアポイ岳の馬の背まで行けるかどうかという実験がメインです。運が良ければヒメチャマダラセセリに会えるかもしれないけど、特に今回どうしても撮影したいと言う強い気持ちは全くありませんでした。ただ、2012年シーズンの幕開けで一度も見たことが無いヒメチャマダラセセリに会えたら幸先が良いなというくらい。

 妻を誘ってみると意外とあっけなく「行く」という返事が返ってきたのでびっくりしましたが、とにかく土曜日の夜に「明日はアポイ」と決定になりました。
 どうやら妻の目的はアポイ岳よりも、様似で日曜日までやっている「ウニ祭り」のようでした。様似で採れるエゾバフンウニのうに丼がお手ごろ価格で食べられるようです。

 日曜日、朝早く妻に起こされて出発。帯広からだと広尾周りで襟裳を通って行くパターンと、大樹から野塚峠を通って行くパターンの2種類が考えられますが、カーナビによると襟裳周りのほうが数キロ短いようだったので、とりあえず行きは襟裳周り。帰りは野塚周りで行く事にしました。

 天気は快晴でとても爽やかな春の感じですが、車の外気温計は6度位で、けっこう寒かったです。
 広尾周りで黄金道路を通るとやたらとトンネルが多くなっていました。トンネルの延長もかなり長いものが多く、景色を楽しむ場所が減って残念な反面、車での移動は楽になっているようでした。

 2時間と少しでアポイ岳の登山口に到着しました。登山名簿に記帳して出発です。この時の時刻は8時50分でした。
 一眼レフのカメラとレンズ4本、飲み物2リットル位にタオルや脱いだパーカーをリュックに背負うとかなり重くてびっくり!自分の体重だって重いのに、更に思いリュックを背負って本当に登山が出来るかどうか心配でした。

 最初のうちは緩やかな登りが多くてそれほど疲れることもありませんでした。熊よけの鐘があったり、ちょっとした花が咲いていたり。気持ちにも余裕があるし、咲いている花の写真でも撮ろうと、時々花を見つけては立ち止まって写真を撮りました。
何だかスミレ?
 登山しているというよりはハイキングという感じでそれほど辛くも無く、森の中を歩いて進んでいきました。
登山道

 しかし、3合目位から徐々にきつくなってきて汗もかなり出てきて息も上がり、登山開始からまだほんの少しなのに休憩の回数も増えてきました。他の登山客にどんどん抜かれます。もう嫌になってきました。花も咲いているところがあるけど撮影する気にもなりませんでした。

 登山開始から1時間半くらいでようやく5合目まで到着しました。立派な休憩小屋があります。ここでまた休憩をする事にしましたが、ちょっとびっくりな光景が待っていました。ここから先は今までよりも急な登りが続くようで、一気に尾根まで上がるらしく、尾根付近の様子が見えるのです。もう戦意喪失気味になりました。
 そして、尾根に出る道のような所を見てみると、小さく人が登っているようなものが見えました。岩場を登っているようです。「え〜!こんなとこ行かなきゃダメなの!?」と思うと、諦めて帰ろうかという気持ちが湧いてきました。
 とりあえず、カメラのレンズを300mmにして尾根付近を撮影してみたのが下の写真です。
尾根付近の様子

 更に、撮影した尾根付近の写真を拡大して確認してみました。

拡大写真。誰か登っているのがわかる。

 更に、何か看板みたいのが見えるので、もっと拡大して確認してみると、その看板は7合目という看板でした。今自分がいる場所が5合目の休憩場所なので、ここから7合目までかなり辛い登りが続く事がわかりました。いつもなら「やめた!」と言うところでしたが、よく考えてみると、ヒメチャマダラセセリは尾根付近から見られるんだから、もし発生しているとすれば、ここまで頑張れば見られるかもしれない。しかも、帯広から朝早く出てきて、ここで引き返したら馬鹿だなと思いました。更に同じ場所で休憩していた監視員の人に妻が「ヒメチャマダラセセリはいつ頃見れますか?」と質問したところ、「今日なんかはもう見れるんじゃないの?7合目付近から見れるよ」との返事が返ってきました。
 天候が良くて風が無い場所でよく見られるらしく、今日なんかは絶好の条件かもしれません。そう考えると、じかんをかけても7合目まで頑張ろうという気持ちになり、すでに疲れて重い足に鞭をうって前に進む事にしました。
 とりあえず、5合目付近で少し景色などの写真を撮って出発です。

5合目から様似の街方面を

様似の漁港?

山の斜面に桜も咲いていた
 案の定、登りがきつくて何度も休憩をして息を切らしながら登りました。ただ、5合目から見上げたときの印象よりは勾配がきつくはなかったです。
 

ちょっと一休みして撮影。5合目の小屋が見える。手前にいるのは監視員ご一行様

 妻はあまり息を切らさず、スタスタ登っていきます。やはり登りは体重差がかなり影響するのでしょうか?
 やっとの思いで7合目に到着。そしてすぐにヒメチャマダラセセリは飛んでいました。普通なら初めて見る北海道の蝶なので感動しそうなものですが、実際には小さな茶色い蛾みたいな蝶がチラチラ飛んでいるという印象で、あまり感動もしなかったです。
 でも、とりあえず写真だけでも撮っておかないとと思い、何枚か撮影しました。

ヒメチャマダラセセリ

 やっぱり地味。こういうのが好きな愛好家も多いんですけど、やっぱり自分はイマイチです。この時10枚位写真を撮ったんですけど、帰って確認したらピントが合っているのがあまりありませんでした。小さい上に距離が2,3m位あって、300mmのレンズで目一杯ズームして撮影すると、疲れているせいで腕がプルプル震えるのと、息があがっているのでしっかりと蝶を狙えなかったんだと思います。

 ここの場所には他にもヒメチャマダラセセリを熱心に撮影している人が2人いたので、あまり邪魔してもあれだし、この先にももっとヒメチャマダラセセリがいるかもしれないと思いました。
 この先、頂上までいくかどうか悩んだんだけど、せっかく来たし頑張って頂上まで行ってみようかと思ったのと、同じような環境があればまたヒメチャマダラセセリが飛んでいるんじゃないかと思って。

 7合目からは少しの間尾根を歩く事になるのですが、尾根なのでそれほど急な感じでもなく、ちょっと余裕も出てきて花の写真も撮影しながら頂上に向かい歩きました。
尾根から日高山脈の山々が見えます。ここまで綺麗に見れる事は滅多に無いと監視員の人が言っていました。
あまりたくさんではないけど、花も咲いていました。アポイ岳は地中のマントルが直接隆起して出来た山らしく、カンラン岩が主成分の珍しい山で、アポイ固有の植物も多いということでしたが、これらの花がアポイ固有の植物なのかどうかはわかりませんでした。
 尾根を頂上方向に進むと、最後の登りがあります。これがまた結構な登りで大変でした。監視員のおじさんは、5合目から7合目にかけての登りよりは楽だと思うよと教えてくれましたが、体力が限界に近づいていたので、なかなか足が進みませんでした。それでもなんとか頂上まで来る事ができました。
 (帰宅してからインターネットで調べたら2時間半位で登れる初心者の山と書かれていましたが、私は3時間ちょっとかかりました。)

 考えてみると生まれてこのかた、登山をしようという目的で山登りをしたことがありません。今日はヒメチャマダラセセリがいる所まで歩けるかという事と、出来れば頂上まで行ってみようかなと少しだけ思っていたので、頂上に到着したときに達成感を感じれるかと思ったのですが、それよりも疲れていて全く達成感はありませんでした。「やったー!頂上だ!」というより「やっと着いたか!」という思いのほうが強かったです。

 天気は快晴で、景色を見ると襟裳岬なんかが良く見えました。コンビニで買ったおにぎりとサンドイッチを食べながらしばらく休憩しましたが、頂上には20人位の人たちがいました。あ、あと越冬明けのエルタテハが2頭いました。自分も含めた登山客に「お前ら邪魔だ、俺の縄張りだぞ!」と言っているかのように私たちの周りをグルグル飛んでいました。

頂上から見た襟裳岬

 7合目でヒメチャマダラセセリを撮影した後、頂上にかけてまではあまりヒメチャマダラセセリを見る事は出来ませんでした。1,2頭位かな。撮影はしませんでした。

 アポイ岳の山頂からは更に吉田岳という山へ向かって道が続いていて、こちらのほうにもヒメチャマダラセセリが生息しているかもしれないなと思いましたが、当然そちらまで行く気にはならず、下山する事にしました。

 下山では特に下りの急勾配では妻より私のほうが歩くのが速くなります。登りとは逆で体重と重力が私を味方してくれます。妻は膝があまり良く無いのでゆっくり下山し、私はとりあえず速く降りて、妻が来るまでに7合目付近まで行ってヒメチャマダラセセリを撮影することにしました。

 スイスイ降りれるかと思いましたが、足が疲れていて思うように降りられませんでした。それでも妻よりはかなり早く降りることが出来、7合目まで行く間にヒメチャマダラセセリの写真を撮影する事ができました。
帰り道のヒメチャマダラセセリ

 そうこうしているうちに妻も7合目まで降りてきました。ここからはまた5合目まで急な下りになりますが、今度は妻が先に行き、私は7合目よりすぐ下の場所が、これまでヒメチャマダラセセリが生息していた場所の環境に似ていたので、探しながら降りる事にしました。
 すると、やはり7合目よりも下の場所でヒメチャマダラセセリを見ることが出来ました。下の場所と言っても、7合目の看板のちょっとだけ下の場所ですが。
 ここでまた少しだけヒメチャマダラセセリの写真を撮影しましたが、今回わかったことはヒメチャマダラセセリに会いたければ7合目付近までで十分かな?ということです。この先、最盛期になれば7合目より上の場所でもたくさん見られるのかもしれませんが。
 今回は花で吸密する写真は撮れませんでしたが、どうしてもヒメチャマダラセセリの写真を撮影したいと言う気持ちでここに来たわけではなかったので、満足できました。

 そうこうしながら5合目まで降りると妻が待っていて、ここからは二人で下山しました。
 勾配が緩やかになっても足の筋肉が疲れていて歩くのがけっこう大変でした。

 下山して登山者名簿を見て妻が言いました。「私たちと同じくらいに登った人たちはとっくに下山している」

 登山口の近くにアポイ山荘という宿泊施設と温泉があったので、ここで汗を流しました。
 妻が目的にしていたウニ祭りというのは、様似で採れたエゾバフンウニを100g以上使用したうに丼が2500円という破格の安さで食べられるというもので、様似の数箇所の食堂や居酒屋で食べられるようです。このアポイ山荘のレストランもそのうちのひとつだったので、ここでいただくことにしました。ところが、注文してみると、普通のうに丼ではなくミニうに丼しか提供できないとの事でした。今日が最終日ということで、ストックがあまり無いようです。なのでここは諦めて他の場所で食べる事にしました。提供している店の一覧のプリントをもらい、どこに行こうか見てみましたが、ちょうど今の時間(4時くらい)は休憩時間になっている店がほとんど。最初行こうかと思った店も休憩時間だったのですが、ある店に電話してみると、お店を開けてくれるということだったのでラッキー!と思い様似の駅の近くのお店に行きました。

 そこで出てきたうに丼が下の写真です。ちなみに私はウニは嫌いじゃないんだけど、2500円も出して食べたいほど好きじゃないのでカツ丼にしました。夕食にはちょっと時間も早いし、山頂でおにぎりとかサンドイッチとか食べたのですが、ぺろりとたいらげました。
 
 うに丼は、妻が言うにはこれまで食べた事が無いくらい美味しかったそうです。
様似のエゾバフンウニのうに丼(2500円)ウニは100g以上だって!

 帰り道は野塚峠まわりで帰りました。これだけ食べたのに、帰りに中札内の焼き鳥屋さんで焼き鳥を食べて帰ろうかということになりました。しかし休み。「おまえ、調子こいて食べすぎだ」と神様に言われて焼き鳥屋さんが休みになったのかもしれないね!言いながら帰宅しました。

 次の日からはしばらく足が筋肉痛!
 立ち上がるときや座るとき、階段を下りるときなど激痛でした。
 今年はまだ撮影していない北海道の天然記念物の蝶(カラフトルリシジミとアサヒヒョウモン)の撮影もしたいと思っているので、良いトレーニングになったかもしれません。