新入部員と春の蝶
2016.4.24

 新年度になり、いつも心配するのが、新入部員が入るかどうかである。野球とかサッカーとかバスケとか、人気のあるスポーツの部活にはたくさんの新入部員が入るが、生物部ははっきり言ってマイナーな部活である。活動自体を知れば、これほど面白い部活も無いと思うのだが、「生物部」と聞いて、実際私たちが行っているような活動をイメージする人も少ないだろう。

 函館に来て3年目。最初の年は2人の部員が入ってくれたが一人は辞めた。2年目には6人も入部したが精力的に活動している部員は4名である。2,3年生合わせてほぼ5名の部員という事になる。(ほぼ活動していない部員も入れると7名)

 帯広にいたときは美術部の顧問をしていて、美術部の新入部員集めにも苦労していた記憶があるので、4月になるといつも新入部員が入るかどうか心配している気がする。

 昨年の春卒業し、現在は道南虫の会会員になった山下君は、中学の時とても成績がよく、「はっきり言ってどこの高校でも入れた」と自慢げに言っていたが、「僕は生物部に入りたくてこの学校に来たんです」と言っていた。人によってはその位魅力のある部活動だと自分でも思っているんだけど・・・。

 で、結果から言うと、今年は3名の部員が入部した。3名とも同じ中学で友達同士だそうだ。
 自分が「生物部入らないか」と声を掛けてみたら友達も連れて3人で入部という事になった。これで今年は新入部員の心配をしなくてもよくなったのだが、この3人がどれだけ部活動や生き物に興味があるかと言えば、まだまだ未知数である。
 山下君や現部長のYさんのように、最初から生物部に入ろう!と決めていたわけではないから。

 だけど、自分が高校に入り、生物部員になった時もそうだったんだけど、興味があるから入るというより、入ってみたらとても興味が出てきたという事も多いと思う。だから、新入部員の3人にもたくさん部活動に参加して色々興味を持ってほしいなと今思っているところである。

 そして、今日はその新入部員3名が初めて野外活動に参加することになった。

 今日の参加は2年生のYさん、J君、N君と1年生3名の6名である。あとは自分と対馬先生と安井さん。
 3年生のMさんと2年生のW君はお休み。

 私とYさんとJ君とN君は、先に水無の林道で春の蝶(スギタニルリシジミなど)を狙い、11時半頃に鉄山の林道で対馬先生、安井さん、1年生3名と合流するという予定であった。対馬先生組は鉄山の林道に行く前にヒメシロチョウのポイントに行くと言っていた。

 私と2年生部員3名で水無の林道に行くと、思った通り孵化したてのおたまじゃくしやエゾサンショウウオの卵を見ることが出来た。孵化したオタマジャクシを観察できると、シーズンインの合図のように感じる。

エゾサンショウウオの卵

オタマの動画

 林道を歩きながら蝶を探す。クジャクチョウやシータテハなど、越冬のタテハの姿が多かった。

蝶を探す2年生部員達

フキノトウに止まる越冬明けクジャクチョウ

越冬明けシータテハ

 エルタテハは見られなかったが、ルリタテハが数頭見られた。網で採集して見たら思ったより綺麗だったので、J君にあげた。
 ルリタテハは昨年の8月頃羽化したものだが、冬前にはなかなか見ることが出来ない。何で越冬明けのルリタテハはたくさん見ることが出来るんだろう?

ルリタテハ

 函館は昨日位にサクラの開花宣言が出されたようだ。実際にはその1日か2日位前には桜が咲いているのを見ていたが、五稜郭にある桜が基準になるだかで、昨日開花宣言が出されたようだ。桜が咲いたら春の感じもするが、さすがに山の中の林道だけあて、まだ少し雪も残っていた。

残雪

 そんな残雪がありながらも春の花たちはたくさん咲いていた。

林道の所にある祠に咲いているカタクリ


エンレイソウ

 探していたスギタニルリシジミだが、林道を少し歩いたところで確認することが出来た。その後けっこうな数を確認できるようになってきて、みんなで採集した。春一番の蝶という印象があるが、しばらく蝶を見ていなかったので、毎年いつもスギタニルリシジミなのかルリシジミなのか若干迷う。今日はスギタニルリシジミばかりのようだが、若干自信がなくなってくる。だけど毛深いし、ちょっとくすんでいるのでスギタニルリシジミであろう。

日光浴するスギタニルリシジミ

 エゾスジグロシロチョウもチラチラ飛んでいて採集させることが出来た。久しぶりにオスのレモン臭を嗅いで嬉しくなった。

 越冬のタテハではシータテハが圧倒的に多かった。

シータテハ(このあと逃がした)

 エゾエンゴサクが咲いているポイントまでやってきた。去年は4月12日にここでスギタニルリシジミを撮影。最早記録更新になった場所だ。

エゾエンゴサク

 この場所にはかなりの数のスギタニルリシジミがいた。縄張り争いをしていたり、日光浴をしていたり、思い思いに過ごしているように見えた。ここで採集しようと思えば数十匹は採れたと思う。だけど、網に入れて観察すると、どうも羽化してから数日経過しているようで、発生初期とは思えない。多分、1週間くらい前なら綺麗なやつばかりだったと思う。

日光浴するスギタニルリシジミ

 鉄山で対馬先生チームと合流する予定もあるので、そろそろ引き返そうかという事になり、林道を戻っていると、なんと1000円が落ちていた。

落ちていた1000円

 林道に流れる湧水の流れによってベチョベチョに濡れていた。さてこれをどうしようか。拾ったんだから警察に届けるべきだという結論になったけど、はっきり言って「水無の林道で1000円落としたんですけど届いてませんか?」なんて警察に行く人はいないだろう。だけどやっぱり法律的には警察に届けなきゃダメなのかな?
 ということで、警察に届けようと思い、J君たちがスマホで最寄りの交番を調べてくれたんだけど、なんと最寄りの交番は11kmだって。
 こんなことしてたら対馬先生との合流時間が遅れてしまうなと思い、とりあえず交番は後で行こうという事で、急いで林道を戻ろうとしたときに新たな事件が。

 ふとN君を見ると、虫取り網に三角紙が1枚引っかかってる。
 そこで私は思った。

 「N君、三角ケースの中身、どこかで吹っ飛ばしたんでないの?」

 そういうとN君は三角ケースを確認。そして予想通り三角ケースの中身、すなわち、採集した蝶達が入っている三角紙をどこかに落としてしまったようだ。走ったときとかにフタが開いたと思われる。

 せっかく採集した蝶を三角紙ごと落としてそのまま帰るわけにはいかないので、N君に「探してこい」と言った。

 50m先位まで探しに行ったN君の足が止まった。どうやら見つけたようだ。

落とした三角紙を探しに行くN君

 で、戻ってきたN君が持っていたのはベチョベチョになった三角紙。そしてその中の4つには蝶が入っている。スギタニルリシジミとエゾスジグロシロチョウ。

 とりあえず、新しい三角紙に蝶を入れることにして、ここで作業した。このタイムロスは10分以上あった感じ。

 ようやく無事に新しい三角紙に蝶を入れ、鉄山に向かう事にした。

 ちょうど鉄山から出発しようとしている頃対馬先生から「今どこにいる?」と電話が来た。「ちょっと色々あって遅れそうです」と言った。

 そして当初の待ち合わせ時間より20分ほど遅れて鉄山の林道に到着。対馬先生との待ち合わせポイントに来たが、いたのは対馬先生だけ。

 「あれ?1年生たちは?」と聞くと、「片道15分位歩いて行って、蝶を捕まえてこい」と言ったとのことだったので、自分たちは林道の先で1年生と合流しようと歩いた。

 歩いていて思った事は、水無の林道と比べて極端に蝶の数が少ないという事。水無の5分の1か10分の1か。スギタニルリシジミの姿もちょっとしか見られず、さっき水無ではかなりたくさんいたので意外に感じた。

1年生を探しながら歩く先輩方

 蝶の数は少ないけど、春の花は水無の林道と同じような感じで咲いていた。自分は特に春の花が好きだ。長い冬を乗り越え、ようやく春が来たなと嬉しくなってくると同時に可憐な花を咲かす。

ニリンソウ

 対馬先生は「あとから車で追いかける」と言っていたのに、何故か走って私たちに追いついてきた。「あれ?車でくるんでないの?」と言ったら、「やっぱりやめた」と言っていた。

 1年生より先に安井さんを見つけた。

林道を歩く対馬先生と先輩たち。奥に安井さんが小さく見える

 1年生部員にとって安井さんはもちろん初対面だけど、先輩たちとはもう顔なじみ。半分顧問みたいなもんだ。
 「どもども」的な挨拶をして、1年生を探しに行った。

 1年生部員はすぐに見つかった。初めて来た林道で、蝶採りも初めて、林道さえ初めてかもしれない中、3人で蝶を探して楽しめているだろうか?と心配だった。
 簡単に虫捕りと思うかもしれないが、網に蝶を入れるのは案外難しいし、どれが蝶でどれが蛾かもわからないだろうし、どこに注目して林道を歩けばいいかもわからないと思う。
 それでも3人で網を持って林道に立っている姿を見て、「ようこそ生物へ!」という気持ちになった。

 少ないながらもスギタニルリシジミや越冬明けのタテハなどが飛んでいて、網で蝶を採る練習にはなったのではないかと思う。

蝶を探す部員達

 それでもやはり蝶の姿は少ないし、ダニもいたりして、対馬先生が「戻るか」と言った。私は、

 「何しに鉄山までわざわざ来たのかわからないわ」と言ったら対馬先生は爆笑していた。

 みんなで林道を戻り、魚道がある場所でN君が持っている網を使って川の水をすくってみたら、綺麗なヤマメが採れた。ただし、この川は禁漁なので、写真を撮ってすぐに逃がした。

ヤマメ


網を乾かすN君

 その後、対馬先生は1年生部員達に「フキの採り方を教えてやる」と言ってフキ採りに行ったので、自分とYさんはもうちょっと林道を歩いてみようかという事になり、二人でテクテク林道を戻るような感じで歩いた。

 そしたら、おばあちゃんとお父さんとお母さんと子ども(10歳)が林道わきの水にあったおたまじゃくしをすくって遊んでいた。お父さんに挨拶したら「たった今、おばあちゃんがマムシを殺した」と言うので、見せてもらう事にした。

 持っていた剣先のスコップでやられたと思われるマムシがいた。まだ少し動いている感じ。
 もう頭はどこにあるかわからない状態だったけど、それでも怖くてビビッていたら、Yさんは平気な顔をして掴んでいた。ヘビ女!

マムシを掴む女子高生

 そこの家族も私も「うわぁ〜」的な感じでビックリ。お父さんはちょっと勇気を出してマムシを触ろうとしていたら、お母さんに、持っていた木刀で殴られていた。この家族の序列がわかった。

 マムシは地面に置いて触ったらまだ動いている感じ。かなり怖かった。

 その後一旦戻って、マムシの話をしたら対馬先生が「持って来い」というのでYさんがマムシを取に戻った。そして持って来た。
 安井さんはかなりビビっていた。Yさんは満面の笑顔でフキ採りをしている1年生部員にマムシを持って行った。みんなびびっていた。

                            マムシを触る動画

 初めて林道に来て、いきなり女子の先輩がマムシを持って脅かしに来る。1年生部員は生物部にどんな印象を持っただろう?もしかして、「とんでもない部活に入ってしまった!」とか思ったかも。

マムシを持って脅かしに行くYさん

 対馬先生は「可哀想だから元の場所に戻してこい」と言う。そして拝んで来いと。
 案外信心深いのである。
 自分は「もう川にブン投げたら?」と言ったけど、ダメらしい。

 2年くらい前なんて、林道で薄っぺらくなって乾燥して死んでいたカエルをブーメランの様にしてブン投げていたくせに!

 そして、「何で殺すんだろうな」と言っていた。マムシが可愛そうだったらしい。

 「何で拝まなきゃならないの?」って聞いたら「祟りがあるかも」的な事を言っていた。
 そんなので祟られたら沖縄の人達はかなりの数ハブに祟られていると思う。

 Yさんがマムシを元の場所に戻して来てから記念撮影をした。安井さんに撮ってもらった。1年生部員にとっては初めての活動で、まさしく記念の1枚だと思う。

今日の参加者で記念撮影

 ちなみに前にいる3人が新入部員で、左からK君、T君である。そして一番右側がW君と、2年生部員のW君と名前がだぶってしまった。これからこの活動記録で話題に出すときはどうしようか考え中である。

 ここで今日の活動は終了。ただし、1000円を交番に届けるというのが残っている。北斗市の水無林道で拾った1000円を何故か亀尾の交番に届けるという。

 交番にはJ君が持って行った。
 帰ってきた後、「褒められたか?」と聞いたら「ちょっと嫌な顔されました」だって・・・。
 実際自分は交番には入らなかったからわからないけど、J君はそういう印象だったようだ。
 高校生がお金拾って交番に届けても、褒めてもらえる感じじゃないのかな?年齢的にも。これが小学生とかだったら褒めてもらえるのかな?

1000円を届けた交番

 半年くらいして落とし主が現れなかったら中央署に貰いに行くという感じらしい。そういうことはちゃんと教えてくれたので、よかった。

 Yさんに「マムシを戻しに行った時、対馬先生に言われた通り本当に拝んできたか?」と聞いたら「本当に拝んできた」と答えていた。この子は素直な子なんだなと思った。

 今日は1年生部員が初野外活動だったけど、自分はそんなに一緒に時間を過ごさなかったからどんな感想を持ったかあまりよくわからない。「面白かった」と思ってもらえれば嬉しいんだけど。

 あと、水無の林道ではスギタニルリシジミがかなりたくさんいたし、ようやく蝶が飛ぶ季節になったという事で、嬉しかった。来週はゴールデンウィークに入るので、天気が良ければまたどっかに行って蝶の観察をしたい。