キノコの奇跡再び(横津岳)
2016.7.31

 今年の6月12日に函館に来て一緒に部活動をした東京のMさんが再び函館に来て部員達と活動したいとメールが来たのは先月の事である。
 メールには7月31日に部員達と活動したいと書いてあった。今回は奥様も一緒に函館に来ると言う事で、ご夫婦そろっての活動となる。
 Mさんが近くに住んでいる方なら、天候を見ながら調整できるが、なにせ東京から飛行機で来て我々と部活動を共にしたいという事なので、その日が晴れるか雨かは運任せみたいな所がある。実際6月12日に来られた時も前日の天気予報は雨。これはどうしようもないから部活動は中止して函館の観光案内でもしようかと思っていたのだが、予報はハズレていい天気になるという出来事があった。
 上ノ国のキノコ林道での活動だったことから、これを我々は「キノコの奇跡」と呼んでいた。

 そして今回。1週間前の予報では曇り時々晴れの天気予報で安心していたのだが、どんどん天気予報が変わり、昨日の時点では雨予報になっていた。
 Mさんはアサギマダラの研究もしているので、横津岳の山頂にみんなで行きたいというリクエストがあったのだが、この天気予報で横津の山頂はさすがに厳しいなと感じていた。前日に電話した時も「雨が降っていたら部活は中止します」と伝えてあった。

 そして今朝、外を見てみると、なんとか雨は降っておらず道路も乾いている。だけどいつ降りだしてもおかしくないような雲の厚さ。とりあえず対馬先生に電話をして相談し、なんとか雨が降っていないので部活を決行しようという事になった。

 さっそくMさんにも連絡をし、横津岳に向かう道路の入り口で待ち合わせることにした。今回の参加部員はJ君が風邪で欠席となったが、他の部員達は全員参加ということで、大所帯になった。

 待ち合わせ場所にはMさんご夫婦が一番先に到着し、次に対馬先生チーム、最後に私と部長Yさん、副部長Mさん、1年生Yさん、2年生W君が到着した。

 待ち合わせ場所に向かう時、自分は部員に「Mさんご夫婦はセレブだぞ」と言っておいた。6月21日の活動の時はMさんの奥さんは来ていなかったので、部員達は全員Mさんの奥さんとは初対面となる。
 待ち合わせ場所に到着した時に、遠くに見えたMさんの奥さんが大きいサングラスをかけていたので、私と一緒に到着した部員達は奥さんを見て「セレブだ!セレブだ!」と騒いでいた。

 Mさんご夫婦に挨拶をして部員の紹介。Mさんの奥さんは一人ひとりの名字をメモに書いていたが、副部長のMさんの名前を聞いた時に、「蛹さん?」って言っていたのが妙におかしくて笑ってしまった。

 全員が到着したところでひとまず「ばんだい号」慰霊碑の所まで行き、ここから対馬先生とMさんの奥さんは車で山頂に向かい、残りのメンバーは歩いて山頂に向かう事にした。1年生部員4名と3年生の副部長Mさんは初めての横津岳である。

山頂に向かいみんなで歩く

 歩き出してすぐに霧のため視界が悪くなる。函館市街地から横津岳を見ると曇っているように見えても、実際の山頂は晴れていて綺麗な雲海が広がっているということは時々ある事なので、今日も少し登ればこの霧も晴れていい天気になっていて欲しいなと思った。

霧の中を進む

 こんな霧の中でもヒメキマダラヒカゲは多数飛んでいた。花でハエたちと蜜を吸っている。

ヒメキマダラヒカゲ

 このハエがたかっている植物がなんていうのか知らないが、とにかくハエとかアブがたくさん来ていたので、きっといい匂いがするのではないかと思い、少しだけもいで匂いを嗅いでみた。特別特徴的なにおいも無く、薄い花の香りって感じ。この匂いのどこかに昆虫をおびき寄せる成分みたいのがあるのだろうか?

ハエがたかっている植物

 自宅のブッドレアもそうなのだが、蝶や昆虫が集まる花って言うのは1つの大きな花ではなくて、小さい花が集まっている植物が多いような気がする。
 クロヒカゲも来ていたが、少し離れた場所から望遠で撮影すると、霧のせいで白っぽく写る。

クロヒカゲ

 山頂まではダラダラ歩いても1時間かからないくらいなのだが、先に車で行っていた対馬先生とMさんの奥さんが山頂から少し歩いて戻ってきており、我々に内緒で藪に隠れていて脅かされた。クマかとは思わなかったけど、シカが出たのかと思いびっくりした。
 このイタズラはMさんの奥さんのアイデアだったそうだ。(後日対馬先生から教えてもらった)

 「隠れて脅かしませんか?」とか対馬先生に言ったのだろうか。お茶目セレブだ。

 そんなドッキリにはめられながらも山頂に到着。
 霧で湿度が高いうえ、横津の山頂がこんなに気温が高いのも珍しい感じ。湿度のせいで汗が全然蒸発しなくてベチャベチャになってしまった。(私だけ)

 晴れているのではないかと期待したが、残念ながら霧がかかったままの状態だった。

山頂に到着しひと休みしている1年生Yさん。奥には他の部員とMさんの奥さん


山頂でひと休みする1年生の男子部員3名

 Mさんと奥さんは見た感じかなり仲良しそうなご夫婦で、さっき部員達が奥さんを見て「セレブ」って言っていたけど、ご夫婦揃って実際セレブだと思う。見た目がオシャレという感じもする。
 自分と違ってかなり上品な印象。

 自分は妻に、「ゴミ」(空港のラウンジで「他の人はあんたのことをゴミのような眼で見ている」と言われた)とか、「薄汚いおじさん」(自転車に乗っている所を妻が車ですれ違った時に見た印象として言われた)なんて言われることもあるけど、
 上品そうな仲良しのご夫婦が横津の山頂で部員達と一緒に生物部の活動・・・・。

 わざわざ東京から部員達と活動するために函館まで来てくれるなんてとても有難いんだけど、普段から部活をしている自分からすれば、その価値がよくわからないというかなんというか。
 生物部の活動に参加することを喜んでくれると言うなら、もう毎回一緒に参加してほしいくらいなんだけど、そういうわけにもいかないか。

横津の山頂にて、Mさんご夫婦

 1年生部員は今回初めての横津岳山頂ということで、どんな印象を持ったのかなと思ったが、ご覧のとおり横津の山頂でスマホ・・・。
 ポケモンGoでもしているのかな?

横津の山頂にて

 そんな中、部員の誰か忘れたけどコヒオドシを捕まえた。コヒオドシは道南ではけっこう珍しい蝶と言えるので、これは貴重な記録になる。ここ数年毎年見られていることは見られているんだけど、平地ではほとんど見られない。

 道東にはたくさん生息していることから、道南の平地では生息するのに気温が高すぎるのかもしれない。横津の山頂は1167mで、この辺では一番高い山である。横津の隣にある函館市最高峰の袴腰岳(1108m)などにも生息しているかもしれないし、かなり昔だが、駒ケ岳に登山に行った両親が、コヒオドシが珍しいとは知らずに採集してきてくれた記憶もある。

N君の手とコヒオドシ

 

1年生部員のYさんとMさんの奥さん
顔はぼかしているが、二人とも満面の笑顔で話している。
ガールズトーク?


霧の中網を持って蝶を探す部長(左)と副部長Mさん(中央)と同じく副部長N君(右)

 少しすると、霧が取れてきて奥の山が見えるようになってきた。更に奥には鹿部の街が見えるはずなんだけど、そこまではなかなか雲が取れてくれなかった。

ちょっと視界が良くなってきた頃

 更に上空には青空まで見えてきた。これはもしや・・・。

 Mさんが前回活動に参加した時も雨の予報だったのに晴れた。今日も雨の予報で部活を中止するかとまで考えた位。更に天候が不安定な山の山頂。条件は厳しいなと感じていたのに晴れてきた。
 前回も今回もこっちの心配をよそにMさんは「なんとかなりますよ」とか「自分は晴れ男だ」的な発言があったのだが、これは本当に晴れ男なのかもしれない。
 前回の時は「キノコの奇跡」と名付けていたが、今回は「キノコの奇跡再び?」もしくは「横津の奇跡!」

 陽が差すと蝶の数も増えてくる。キアゲハを捕まえて対馬先生がMさんご夫婦に何か説明していた。

キアゲハの説明をする対馬先生


青空が見えてきた

 対馬先生の指示により数名の部員は散策に出かけていた。山頂付近にあるもうひとつの建物まで。
 部長が1年生を案内して連れて行ったが、しばらくして帰ってきた。特に成果は無かったらしい・・・。

帰ってきた部長と1年生

 2年生のW君は対馬先生に言わせると「いつも傍に女子部員がいる・・・」

 女子部員がW君に近づいているのか、W君が女子部員に近づいているのかわからないが、言われてみれば確かに。

先輩であるMさんを捕まえてナンパしている?W君

 本当はアサギマダラがいたら一番良かったんだけど、時期的に難しいのは最初から分かっていた。だけど、山頂に吹き上げられてきたキアゲハや、コヒオドシ、ヒメキマダラヒカゲなど数種類の蝶の観察をすることが出来た。
 
 皆で記念撮影をして、中野ダムに向かう事にした。

今日の参加者みんなで記念撮影

 対馬先生とMさんの奥さんは車で慰霊碑まで行き、残りのみんなは歩いて慰霊碑の所まで行くことにした。

 歩き始めてすぐにカッコいい甲虫を見つけた。名前はわからないが、胴体の両サイドが微妙に緑がかった綺麗な甲虫だ。

  8/4追記: (アオカタビロオサムシと言うそうです)

かっこいい甲虫

 触ったら臭い匂いを出して攻撃してくるのではないかと思ったけど、臭い匂いは全く出さなかった。こいつの写真撮影をしているうちに、他のみんなは歩いて先に行ってしまった。

先を歩くみんな

 しょうがないので部員たちの引率はMさんに任せて、自分は花の写真でも撮りながらゆっくりテクテクひとりで歩いて行こうと思った。

よくわからないけど撮影した植物


よくわからない花

 歩き出して少ししたらまた薄く霧がかかってきた感じだったけど、雨に降られることも無く、みんなで歩いて慰霊碑まで向かう。

歩くみんな

 自分はカッコいい甲虫を撮影していたのでみんなから遅れてしまったんだけど、あとから車で来た対馬先生の車に乗せてもらってみんなより少し行ったところで降ろしてもらい、歩いてくるみんなを正面から撮影した。

奥にある建物が山頂にある航空レーダー
Gメン75みたいに横に並んで歩いている


Mさんがみんなを引き連れているように見える
右側で後ろ向きに歩いている男女は関係ない人

 自分はフジミドリシジミがいないかなと思いながら付近を探していたが見つけることは出来なかった。綺麗なクジャクチョウなどは見つけたがどこにでもいる蝶なので真剣に撮影する気にもなれなかった。

クジャクチョウ

 1年生部員のT君やK君はほとんど採集する気が無いのか、T君はもう網をリュックにしまっている始末。
 「何か珍しいのが出て来たらどうすんのよ」と言うと、「素手の方が捕まえやすいんです」だって。
 「そんなわけねぇだろ!」とか言いながらみんなで歩いた。

 もうすぐで慰霊碑という所まで来て、2年生のW君が葉っぱに止まっている蝶を発見し教えてくれた。
 「どら」と言って蝶を見てみると、目が悪くてあまり良く見えなかった。
 望遠レンズで確認してみると「あれ?これもしかしてヒオドシチョウじゃない??」
 でもあまり考えられないというか、まさかという感じ。でも似ている種類のエルタテハの特徴である翅の裏面の「L」の模様も見えないし。

 とりあえず数枚撮影

ヒオドシチョウに見えた蝶

 ヒオドシチョウは道南では極めて珍しい蝶と言える。自分の感覚からしたら数年に1頭見れるか見れないか。
 高校生の頃、オンボロなヒオドシチョウっぽい蝶を採集した記憶があるのと、今は広島で頑張っている卒業生の山下君が万太郎林道でヒオドシチョウの撮影をしたこと、去年部長のYさんが横津の山頂でオンボロなヒオドシチョウを捕まえ北海道における最も遅い記録を更新した事位しか記憶にない。

 数枚撮影した後N君の持っている網を借りて慎重に採集することにした。

 採集に成功して見てみると、これはやはりヒオドシチョウだった。

採集したヒオドシチョウ

 これはこれで貴重な記録となった。まさかここでヒオドシチョウを採集できるとは。今日来た価値があったと思った。

 

キアゲハとクジャクチョウ

 予定通り次に向かったのは中野ダム。
 横津岳から降りて行く間、Mさんご夫婦からいただいたサマンサタバサのマカロンをみんなで食べた。

 中野ダム到着後、ダム方面まで歩く人と、ここら辺で休んでいる人のグループに分かれることになった。
 自分とMさん夫婦、部長と副部長のN君だけが歩き、そのほかの人はここで休んでいる感じになった。

 Mさんはトンボを捕まえてご満悦だった。

トンボを指に乗せてご満悦なMさん

 ダムの所までお話しながら歩いたが、特別な蝶は全く見られなかった。だけどスジグロとエゾスジグロシロの区別など、特にMさんの奥さんは横津の時から部員や蝶の名前を一生懸命メモしていた。
 部員達の名前を覚えようとしている姿は自分も見習わなければ(私は人の名前を覚えるのが苦手)と思ったが、蝶の名前までメモする必要があるのだろうか?と一瞬思った。
 だけど、メモした蝶の名前をインターネットで検索したりすれば、その蝶がどんな生態の蝶なのかとか調べることもできるので、今回「見た」という事以上に色々知ることも出来るなと思った。
 部員達も見習ってほしい。

 一応、ダムの天端近くで記念撮影をして、対馬先生の車に乗って下に戻った。

ダムの天端で記念撮影

 下に降りるとみんなグダ〜としていた。横津岳登山がそんなに疲れたのかな?自分はまだまだ元気だった。

 ここで一旦解散となった。Mさんご夫婦と女子部員3名+2年生W君はうちに来てもらい、部員達は2階の私の部屋でエアコンを効かせてひと休み。Mさんご夫婦と私夫婦は1階で時間を過ごした。

 4時くらいになり、Mさんご夫婦は「木はら」に行くと言い、帰って行った。

 本当に普通の部活動と変わらなかったが、Mさんご夫婦が「東京からわざわざ来た価値があったね」って思ってくれたかどうか若干心配。だけど、雨予報が天気になり、暑いくらいの中、色々な活動が出来たのはMさんの晴れ男の運の引きの良さだったのかもしれないし、これだけでもラッキーだったと思う。

 今回はMさんと2回目の部員もいたし、Mさんの奥さんも人見知りな部員達に積極的に声を掛けてくれたりして、部員達も楽しかったと思うので、是非また函館に遊びに来ていただき、部活動に参加してほしいなと感じた。また、Mさんご夫婦はじめ、我々生物部の活動を応援してくれている方がたくさんいるということも再認識でき、改めて嬉しい気持ちになった。