狂乱のアサギマダラ祭り!
2013.8.13

 今日は一日、アサギマダラの観察に行く予定であった。計画では8時に家を出て、8時半頃アサギマダラが多く見られるという場所(昨日も訪れた場所)に到着する予定だったが、函館工業高校生物部顧問で道南虫の会の会員でもある対馬先生から、「もっと早く出たほうがよい」と連絡があった。

 道南虫の会の調査等により、函館近郊でアサギマダラが見られる場所は数箇所あるようだが、その中でも一番可能性が高いと思われる、横津という山に行く事にしていた。

 対馬先生と、同じく道南虫の会の会員である安井さんは、直接山頂に行き調査をするということだった。山頂に行く途中にもアサギマダラが見られそうな場所があるが、私が撮影目的と言うことで、その場所はスルーして温存し、「直接山頂に行く」と気を使ってもらった。

 連絡を取り合いながら8時より前に家を出た。天候も良く期待できる。
 対馬先生と安井さんは既に山頂にいると言うことで、私はまず、スルーしてもらったアサギマダラが見られそうなポイントで観察し、あまりアサギマダラが見られないようであれば山頂まで歩いて行く事にしていた。

 アサギマダラは5月頃、本州以南から北海道に飛んでくる。飛んでくる個体数はその年によって違うようだが、今年は特に多くのアサギマダラが道南で観察できた。その情報を元に私が住んでいる道東地域でもアサギマダラが見られるのではないかと調査し、6月9日に目撃、6月22日には捕獲に成功しマーキング出来た。
 5月頃から渡ってきたアサギマダラはそれぞれの地で産卵し、その子供たちが8月頃に羽化すると考えられている。春に多くのアサギマダラが観察されたなら、それだけ多くの子供たちが8月に見られるのではないかと期待されていた。実際、道南虫の会の会員たちの調査により、今年初めて道南地方でアサギマダラの幼虫や蛹も確認されている。

 そして8月頃になり、予想通りこれまでにない位多くのアサギマダラが観察されていた。道南虫の会の掲示板では毎日のようにアサギマダラの観察情報やマーキング情報が投稿されていた。

 マーキングと言うのは、アサギマダラがどのように行動しているかを確かめるため、採集したアサギマダラの羽にマジックで採集日や採集地、採集者、番号などを記入して放す事である。

 アサギマダラが移動した先で誰かが再捕獲することにより、そのアサギマダラの移動や移動距離、移動に要した日数などを知ることが出来る。
(アサギマダラにはリンプンが無い場所があり、そこにマジックで記入しても問題はない)


 私と妻はまず、山頂より下側にあるアサギマダラが多いと思われるポイントに到着した。
 車を止め、降りようと思いながら近くのヒヨドリバナの咲いている方向に目をやると、いきなりアサギマダラの姿が目に入った。
 「いた〜!」とすぐにカメラを取りアサギマダラの方に向かった。その場所まで草をこぎながら進んだ。気配を察知されて逃げられないように慎重に、しかし素早く行かないと飛んで行ってしまうかも知れない。

 遠くから一枚、少し近づいて一枚と何度も撮影しながら近づいた。アサギマダラは全然逃げる様子が無く、ヒヨドリバナで夢中になって吸蜜していた。

 最初のアサギマダラ撮影成功!いきなりアサギマダラに会うことが出来てかなりラッキーだとこの時は感じ、嬉しさがこみ上げていた。

最初に撮影できたアサギマダラ

 一旦車に戻った。

 ここの場所には道南虫の会の会員である名越さんと言う方が、アサギマダラの観察をしやすいように笹薮を切って獣道のようなものを作ってくれていると言う事が掲示板に書かれていた。
 妻が「あれが、道じゃないの?」と指差した。

 画像ではちょっと見にくいが、ちょうと中央部分に土が見えている。画像ではわからないが、道は手前のほうからずっと続いていて、土が見える部分のかなり奥まで続いていた。
 笹薮を切りながらこれだけの道をつけるのは大変な作業であったと思われる。私は道を作った名越さんに敬意を払い、「名越ロード」と名付けた。

名越ロード

 一旦体制を整え、あたりを見回したが他にアサギマダラの姿は見えない。

 そこで、名越ロードを歩いてみる事にした。

 単に笹薮を漕いで行くのと比べ、名越ロードのおかげでかなり歩きやすい。
 名越ロードの画像(上の写真)で土が見えている部分は急な登りになっていてやや滑りそうで怖かったが、そこを越えるとアサギマダラの好きなヒヨドリバナがたくさん咲いているようだ。

 そして、その名越ロードの急な場所を過ぎた時、凄い光景が目に飛び込んできた。

 狂乱のアサギマダラ祭り!開演である!!!

 たくさん咲いているヒヨドリバナの多くにアサギマダラがくっついていて花の蜜を吸っている!その数、多分20頭弱。

 こんなにたくさんのアサギマダラ、これまで見たことが無い!!

 あっちにも、こっちにもアサギマダラ。かなりびっくりした。

 とりあえず撮影を試みる。アサギマダラたちは吸蜜に真剣なのか、自分に全然気付いていないようだ。警戒心もかなり薄いようで、近づいても全然逃げない。撮影し放題!!

 近づいてアップで撮ったり、飛んでいるところを狙ってみたり、広角で背景を入れながら撮影してみたり、複数頭を1枚の画像に入れて撮影してみたり。とにかくやりたい放題!!もう、自分自身が舞い上がっているのがわかる。

アブとアサギマダラ

ヒヨドリバナから飛び立った瞬間のアサギマダラ
飛ぶまでずーっとカメラを構えて待った。

2頭のアサギマダラを1枚に。
実は撮影の直前まで3頭いた

背景も入れながら撮影

広角レンズにて撮影。右上あたりに飛んでいるアサギマダラが小さく写っている。

マーキングされているアサギマダラも発見!

 マーキングされたアサギマダラを撮影した頃、車にいた妻が大きな声で叫んだ。「対馬先生から電話だよ!」
 しかし、車に戻るまで1分はかかるので妻に「出て!」と言った。

 妻は電話に出て対馬先生と何か話しているようだったので「10頭はいるって言って!」とお願いした。
 どうも電波がうまく繋がっていないようだった。

 その後私は一旦車に戻り、携帯電話を持ってもう一度名越ロードを歩きながら対馬先生に電話をした。

 このポイントでかなりのアサギマダラが見られることを伝え、マーキングされたアサギマダラもいると伝えると、「採って」と言われた。でも自分は網を持っていないから採れない。

 「網持ってないから採れない。写真なら撮れるけど」と伝えたら「何で網持ってないのよ!」と怒られた。
 だってさ・・・・・・・。写真撮ろうと思ってただけだから・・・・。

 マーキングされたアサギマダラは肉眼では何て書いてあるかよくわからなかった。

 山頂にいた対馬先生からの話では「山頂は少ししかアサギマダラが見られない」と言うことで、「これからそっち(自分がいる所)に行く」という事で電話を切った。

 10分くらいしたら対馬先生が来るのかな?と思ったら、すぐに対馬先生がやってきてちょっとびっくりしたが、自分はその間にマーキングされたアサギマダラをたくさん撮影することが出来た。

「ハコダテ」 「8/11」 「wk-14」と書かれていることが分かった。(本日は8月13日)

 対馬先生が来た時点で、アサギマダラの数はけっこう少なくなっていた。

 対馬先生は名越ロードを上がっていきアサギマダラを確認。アサギマダラが少なくなっているのを見て、「もう一本名越ロードがある」と言い、30m位離れた場所にあったもう一本の名越ロードの方へ向かった。
 
 そっちにも名越ロードがあったのか・・・と思った。

 少しして、対馬先生は網に6頭のアサギマダラを入れて戻ってきた。

対馬先生の網に入った6頭のアサギマダラ

 どうやら自分が歩いた名越ロードの所にいたアサギマダラのうち数頭はもうひとつの名越ロードにあるヒヨドリバナに移動していたようだった。対馬先生も満足そうだった。

 対馬先生がマーキング用にアサギマダラを捕獲するのであれば自分は撮影が難しくなる。だけど名越ロードが2本あれば別々に行動できるので、対馬先生は採集、自分は撮影ということが可能。

広角レンズで空を入れながら撮影

 撮影しながら、嬉しい気持ちがこみ上げてきたが、同時に名越ロードを作ってくれた名越さんへの感謝の気持ち、そして、このポイントを私のためにスルーして山頂に向かってくれた対馬先生と安井さんへの感謝の気持ちを強く思った。

 ここで私と妻は歩いて山頂に向かう事にした。対馬先生は山頂へ車で向かうことが出来(途中にあるゲートの鍵を持っている)車で連れて行ってくれると言ったが、自分と妻は運動のために歩いて山頂まで行く事にした。

 対馬先生は「ここでもう少し粘って、15分位したらまた山頂に向かう」というので、「もし自分たちを追い越す時に、自分や妻が疲れていたら乗せて下さい」と言って歩き出した。

 過去に何度かここから歩いて山頂に行ったことがある。確か、ゲートからは1時間もあれば山頂まで行けるし、全て舗装された道で、急な坂道も無いのは知っていた。

 テクテク歩きながら妻と山頂を目指した。天気がよくて汗もかいたが、たくさんのアサギマダラに出会えてとても気持ちいい。

 歩いている最中、シマリスを発見、妻が「ミミー!」とリスに声をかけていた。(ミミ)とは以前私が飼っていたシマリスの名前。

 リスはすぐにどっかに行ってしまったが、妻は道路脇に咲いているヒヨドリバナに止まっていたアサギマダラを発見した。リスを探していたら見つけたらしい。

 

道路脇にいたアサギマダラ

 最初、3頭いたが1頭は飛んでしまい2頭になった。ちょうど少し疲れて「次のカーブに来たら休憩しよう」と言っていた所だったので、撮影しながらの休憩になった。

広角レンズで撮影

 撮影しながらの休憩を終え、また歩き出した。休憩しようと思っていたカーブの所を過ぎると山頂のレーダーが見えた。思っていたよりも随分近かったなと思った。

 今日はチョウチョのTシャツを着ていた。帯広から函館に来る最中に立ち寄った苫小牧のイオンの中にあるモンベルに行った時に目に入って購入したTシャツだ。
 今年の7月14日にはコスタリカで購入したチョウチョのTシャツを着て帯広近郊の山に行った時にかなりの数の蝶に会えたので、今日もチョウチョのTシャツを着ればアサギマダラに会えるかなと思っていたが大正解!自分にとってチョウチョのTシャツは勝負服か?と。なんだかチョウチョのTシャツは縁起がいい。
 ちなみに苫小牧ではチョウチョのTシャツだけでなく、カミキリムシのTシャツ、妻はどんぐりのTシャツも購入した。
 いつか、カミキリムシを探しに行く機会があったらカミキリTシャツを着ていこうと思った。

縁起がいいチョウチョのTシャツ。しかも左下はアサギマダラ!

横津岳の頂上

 横津岳の頂上に到着すると安井さんがいた。山頂でずっとアサギマダラを観察していたらしい。久しぶりの再会でうれしかった。挨拶をし、話を聞くと頂上より先ほどいた場所の方がアサギマダラが多そうな印象を持った。

アサギマダラ調査をしている表示

 頂上まで40分ほどだった。15分か20分で戻ってくると言っていた対馬先生は未だに戻ってきていない。きっとたくさんのアサギマダラがいて捕獲しているんだと想像した。

 横津岳の頂上は見晴らしが良く、駒ケ岳や大沼なんかも見ることが出来た。

駒ケ岳山頂部

開通前の北海道新幹線の線路が見えた

大沼

 しばらく付近を捜索したが、アサギマダラは見えなかった。ほどなくして対馬先生が戻ってきた。今年のマーキングのナンバーが100になるまで捕獲を頑張っていたそうだ。

 捕獲されたアサギマダラは一度三角紙(チョウチョを採集したら保管する紙)に入れられていて、かなりの数のアサギマダラが対馬先生の三角紙に収められていた。

 そして、それにマーキングをしてここで放す事になった。
 番号と性別を別の紙に記録してどんどん放していった。

マーキング記録のメモ

 対馬先生が捕獲したアサギマダラの中には、先ほど私が撮影したマーキングされたアサギマダラも含まれていた。この蝶を8月11日にマーキングしたのは函館工業高校の生物部の部員であることがわかった。私の後輩ということになる。

 後輩が捕獲しマーキング、2日後に20年以上先輩の私が撮影、そしてずっと顧問をしている対馬先生が再捕獲して放す。何か因縁のようなものを感じた。きっとこの個体はいつか本州以南のどこかで更に再々捕獲されるんじゃないかな??そしたら凄いことだと思う。

マーキングしている様子

記念すべき対馬先生の今年ナンバー100のマーキング個体

 山頂付近からは函館山がよく見えた。放されたアサギマダラは一気に逃げていくというよりは、近くをフワフワ飛びながらそのうちどっかに行ってしまうというような感じで見えなくなった。この後、この函館山を飛び越えて本州に渡っていくのかもしれない。無事に飛んでいってどこかで再捕獲されて欲しいなと思った。

山頂付近から函館山を望む

 山頂に飛んでくるアサギマダラがあまり見られなかったことから、また元の場所に戻る事にした。対馬先生と安井さんも戻ると言うことで「車に乗ってくか?」と言われたが、距離も大した事無かったし、運動のため歩いて戻る事にした。

 戻る途中にも何度かアサギマダラを見つけて撮影することが出来た。

戻る途中のアサギマダラ。飛翔

 アサギマダラは山頂部と、山頂より少し下がったヒヨドリバナの多い場所にたくさんいると思っていたが、案外登山道でもたくさん見ることが出来、歩いてよかったと感じた。

登山道のカーブミラー付近にいたアサギマダラ
アザミの花に来ていた。ピンクの花が好きなのかな?

 対馬先生と安井さんは車で私達を抜かして行ったので、きっと先ほどアサギマダラがたくさんいた場所に行って採集していると思った。私はそこより少しだけ上の場所を見に行く事にした。
 ヒヨドリバナはたくさん咲いていて期待したが、数頭程度しか見ることが出来なかった。アサギマダラは少なかったが、アカタテハやキベリタテハ、たくさんのキアゲハを見ることが出来た。

ヒヨドリバナに止まるアカタテハと飛んでいる何かのヒョウモン

 上のほうから見ると、安井さんが網を持ってアサギマダラを探していた。もうひとつの名越ロードを歩いているようだった。予想通り朝にたくさんアサギマダラを見た場所で探しているようだ。

 安井さんを見ていると、対馬先生から電話が入った。「どこにいる?」と言うので、「上から対馬先生と安井さんを見下ろしている」と言うと「あ、見つけた。俺たちももう帰るから下りて来い」と言われ、朝の場所に戻る事にした。

もうひとつの名越ロードでアサギマダラを探す安井さん

 安井さん、対馬先生と合流して状況を聞くと、もうあまりアサギマダラは見られなくなっているようだった。
 また、対馬先生は2本の名越ロードの間を繋げたと言っていた。笹薮を踏みしめて歩き、繋がっていなかった2本の名越ロードを繋げたようだ。

 どうやらアサギマダラは午前中に吸蜜などの活動をして、午後になると林のほうに行って休む習性があるようだ。

 それでも対馬先生が言うには「この場所でこんなにたくさんのアサギマダラが見られたのは初めて」ということで、チョウチョTシャツのおかげかどうかは分からないが、名越ロードのおかげで本当にたくさんのアサギマダラが見られた。

 午後になり、少なくなったアサギマダラだが、妻を含め、4人で話をしているときに対馬先生は何か見つけたのか、もうひとつの名越ロードに走っていった。安井さんが笑いながらそれを見ていたのがとても印象的だった。

 少しして対馬先生が戻ってきたのだが、どうも様子が少し変だった。網を杖にして何だか苦しそうに足を引きづりながら歩いている。
 どうしたのかな?と思ったら、「足が痛てぇ〜」と対馬先生が言った。

 名越ロードからジャンプして道路に降りたとき、ふくらはぎを痛くしたらしい。

 「何かで叩かれたような痛みを感じた」と言い、「痛てぇ〜」「痛てぇ〜」としきりに言っている。よほど痛いのだろう。
 痛いけどなんとか歩く事は出来るらしい。そして、痛くしたのが左のふくらはぎだったので、車を運転するには問題無さそうだ。

 ここで対馬先生、安井さんと私たちはお別れした。11月の道南虫の会懇親会でまたお会いしましょう!!と。

 私たちもほどなく山を降りる事にした。思ったよりかなり多くのアサギマダラに出会えた。こんな事は今後もう無いんじゃないかという位。全部で100回くらいはアサギマダラを目撃できた。

 ちなみに今回の題名「狂乱のアサギマダラ祭り!」は、名越ロードを作ってくれた道南虫の会会員の名越さんが、虫の会掲示板に8月2日に投稿した文の中に、

 〔今年の夏は「狂乱のアサギマダラ祭り」になるのでしょうか?楽しみです。〕

 と、書き込みされていた内容からそのまま拝借。
 名越さん、8月13日、本当に狂乱のアサギマダラ祭りが開催されましたよ!!!

 その名越さんはこれまでの数日間の調査で疲れたらしく(安井さん談)大事をとって今日はお休みということでお会いすることが出来なかった。

 帰宅後しばらくしてから虫の会掲示板を見ると対馬先生から投稿が。
 足が痛くて病院に行ったらしい。
 
 「左下腿筋断裂」

 入院やギブスはいらないそうだが、かなり痛そう・・・。

 大事をとって休んでいた名越さんが正解なのか、ふくらはぎの損傷と引き換えにたくさんのアサギマダラを観察できた対馬先生が正解なのか・・・・・私にはわかりません!

投稿された対馬先生の左足ふくらはぎグルグル包帯写真


 今日一日で250枚位撮影できた。そのうち200枚以上はアサギマダラの写真である。もうとにかくお腹いっぱいになるまでアサギマダラの撮影が出来てとても幸せだった。