特別名誉部員?
2016.6.12


 今日の活動はいつもと違う特別な活動になる。我々の活動を東京から応援してくれているMさんが函館に来て、部員達と一緒にアサギマダラ探しなどをすることになっていたのだ。

 Mさんとの出会いは昨年の事になる。詳しくは昨年12月23日の活動記録に書いてあるのでそこを見てほしいが、Mさんは東京在住の方で、昨年位からアサギマダラのマーキング活動をしており、九州の姫島などに何度も行き、マーキングしたアサギマダラが我々に再捕獲されてほしいという願いを込めて放してくれている。
 九州の姫島はアサギマダラの多い場所で、卒業生の山下君も広島県からスーパーカブで姫島に行きマーキングをしてくれている。
 このHPつながりで山下君は姫島でMさんのお世話になったり、部員達のために美味しいものを送ってくれたり、本当に我々の活動を応援してくれている方だ。
 ちょうど本州から北海道にアサギマダラが飛んでくる時期が6月上旬だったので、最初は6月上旬にMさんが函館に来る予定だったのだが、運悪くそのあたりは部員達が中間テストのため活動できない時期と重なってしまっており、その事を伝えると、北海道に来るの1週間遅らせてくれた。

 ところが、この1週間と言うのはなかなか大変で、上旬を逃すとアサギマダラが飛んでくる確率はかなり少なくなる。それでも部員達と一緒に活動することの方が優先だという事で、わざわざ飛行機の予約を変更して、昨日函館に来てくれた。

 自分は1週間前からドキドキしていた。それは天候に対してだ。
 往復の飛行機代、宿泊代、レンタカー代。かなりの出費になる。それで雨でも降られたら活動どころではないからだ。

 最初、今日の週間天気が出た1週間前の予報では、今日の天候は曇り予報だった。ただ、1週間後の天気予報が当たる確率はそうでもないから様子を見ていたら、数日前には曇り時々晴れって感じの予報に変わった。このまま天気が良い方に傾くかと思ったら、今度は曇り時々雨みたいな天気予報になってしまった。これはまずい。

 そして前日の天気予報でも雨マークになってしまい、もうどうしたらいいかわからなくなってきた。こういう天気予報の場合、通常なら野外活動は中止にして自宅で蝶の展翅などをするのだが、今回はそういうわけにもいかないので、野外活動を強行することにした。

 前日の土曜日、最終便で来たMさんを妻と空港まで迎えに行き、回転ずし「函太郎」のボックス席で寿司を食べながら明日の打ち合わせ。心の中では「ザーザー降りでどうしようもなくなったら部員を連れてMさんと一緒に函館観光でもしようか」と思っていた。でもまぁそれは明日になってみないとわからないので、一応大安在に行く時間を確認し、部員達にも連絡した。

 自分は明日の天気が悪そうで焦っていたが、Mさんは「自分は晴れ男だ」みたいな事を言っている。

 ところが次の日の朝、大トラブル発生!なんと時間を決めた私が時間に遅れるという大失態!
 普段部員達にも「時間を守れ!」とか言っているのに、その自分が時間に遅れた。もう最悪である。よりによってMさんが来るという大事な日になんで・・・・。

 思い起こせば時間に遅れたのは遡る事15年くらい前、岩見沢の学校に初任で勤めていた時に2回くらい遅刻したことがある。多分それ以来だ。

 部員達にも迷惑をかけてしまったが、なんとかみんなで大安在に行くことが出来た。

 大安在に向かう途中には霧雨も降っている場所があったり、暑い雲に覆われて風も凄い。先に到着していた対馬先生に電話すると「台風並みに風が吹いてる」という。これまた最悪である。
 昨日はとても天気が良くて活動日和だったのに。

 でもとりあえず大安在まで向かって先に着いていた対馬先生チーム(対馬先生、J君、N君)と合流。Mさんも初めてみんなと顔を合わせた。

 Mさんは以前メールで人見知りだという事を言っていた。私もけっこうな人見知り、そして部員達も全員人見知りの性格だ。ところが対馬先生だけは人見知りとは全く逆の性格だ。部員達は初めて会ったMさんになかなか話しかけられないでいたが、対馬先生はすぐにMさんと色々お話をしていた。さすが!

笑顔で話す対馬先生とMさん

 せっかく来たからと大安在の浜辺を歩き、スナビキソウを見て歩いた。だが当然アサギマダラの姿は無し。今日は1年生部員ではYさんだけが参加しており、大安在の砂浜も初めてだったから恒例の平べったい石探しもしようかと思ったけど、どんよしとした雲の中では面白くも無いのでちょっとしか石探しをしなかった。ただ、アサギマダラが引き寄せられるスナビキソウを見せて、花の匂いを嗅いでもらうことは出来たので、少しは勉強になったと思う。

 それでもいつまでもここにいてもしょうがないので、近くのキノコ林道に移動することにした。東京のMさんはアサギマダラ専門で、他の蝶の事はあまり知らないらしいが、メールには色々な蝶に会えるのも楽しみと書かれていたし、部員達と一緒に生物部の活動に参加するのが楽しみとも書かれていた。なので今日は生物部の特別名誉部員ということになってもらおうと心の中で思った。Mさんの奥様も来てくれればよかったんだけど、今回は東京でお留守番という事で、少し残念だった。

 キノコ林道は大安在の浜のすぐ近くにある。移動したはいいけど天候はやはりどんよりで、風も強い。こりゃ、蝶は見られないだろうなと思ったけど、白い蝶だけは元気に飛んでいる姿を何度も見ることが出来た。スジグロシロチョウだろう。

キノコ林道にて

 以前来た時に比較的チョウが多かった所で少し待ってみたが、曇り+風ではどうしようもない。でもとりあえず対馬先生とMさん、それに部長のYさんと1年生のYさん、J君は林道の先を進んでいく感じで歩き、自分たちは来た道を戻る感じで歩くという、2班に分かれて蝶探しをすることになった。Mさんと対馬先生はどんな話をしながら歩くのかな?とちょっと興味があったけど、対馬先生は人見知りしないからきっとずっと喋りながら歩くんだろうなと予想できた。

 自分とN君、W君の3人で来た道をゆっくり戻りながら蝶を探した。自分はシロチョウでもなんでもいいから写真に撮りたいなと思っていた。本当は薄曇りがいいけど、こうやって曇っている時は写真が撮りやすい。蝶があまり飛び回らないというのもあるし、光が柔らかい感じになるので白とびとか黒潰れとかしにくくなるからだ。

 私は網を持っておらず、カメラしか持っていなかったので部員達と少しだけ距離を置いて蝶を探した。ちょうどモンキチョウが地面付近に止まったので一眼レフで撮影しようかと思ったが、コンデジのマクロの方がいいなと思い、少しずつ近づいて撮影した。

コンデジで撮影したモンキチョウ

 まずまずちゃんと撮れた。次はスジグロシロチョウがシロツメクサに止まったので、これもコンデジのマクロで。
 これくらい近づいて撮れるなら300mmの暗いレンズを駆使して大きく撮るよりずっと綺麗でシャープな蝶の写真が撮れる。いつもこれくらいまで近づけるなら一眼レフなんていらないなと思うんだけど、なかなかそういうわけにもいかない。

シロツメクサに止まるスジグロシロチョウ

 道路脇のエゾニュウも大分大きくなっているし、キアゲハの卵でもないかなと思って探したが見つけられなかった。

カエル

 そうこうしているうちに、なんだか明るくなってきたような気がした。空を見ると雲が薄くなっていて隙間から青空が見えだしていた。これは奇跡かも。天候は悪くなっていく予報だったのに。

 時間が経つについてれ空の青空の面積が大きくなってきて、ついには陽が差してきた。うそーー!

 本当なら今日は野外活動しない。で、せっかくMさんが東京から来たというのに天候が悪い。しかしここに来てまさかの日差し。これを私は心の中で「キノコの奇跡」と名付けたのだが、Mさんが「私は晴れ男」と言っていたのを思い出した。
 晴れ男とか、雨男とか、人間が天候を左右させる力を持っていることは信じない。信じないけど今日の予報で晴れ間が出てくるとはこれまた信じられなかった。晴れ間が出てくると蝶の姿も多くなってきた。が、なかなか対馬先生チームも戻ってこない。何分で戻るというような約束はしていなかったけど、もしかして全員熊に食べられていたらどうしようとほんの少しだけ思ったので、私たちのチームもゆっくり林道を進んで行く事にした。空を見ると半分以上は青空になっていた。
 暑くなってきて汗をかいた。

 タラタラ歩いていたら、綺麗なゾウムシがいた。名前がなんていうかはわからないが、エルメスのブルーに似たような色。キラキラ輝いている。あとで1年生のYさんに見せてあげようと思い、手で摘まんで持ち歩いた。

キラキラ輝いていた小さいゾウムシ

 タラタラ歩いて行ったらようやく対馬先生チームと合流できた。誰も熊には食べられていなかった。

 別れていた時間は30分以上あったような気がしたが、対馬先生とMさんもすっかり打ち解けているようで嬉しかった。Mさんが専門のアサギマダラの話をするなら、私と話すより対馬先生と話す方が100倍面白いと思うから、きっといろんなアサギマダラの話も出来たんだろうなと予想した。

 誰かが捕まえたキアゲハなどを対馬先生が手に持ちMさんがスマホで撮影していた。

対馬先生が持つ蝶をMさんがスマホで撮影

 Mさんは「私はもう蝶の名前が覚えられない」と言っていたが、そんなはずはない。見た目で名前がついている蝶もいてわかりやすいし、何よりも興味を持てば一気に覚えられる。採集して殺すことはしたくないと仰っていたが、それならカメラで撮影するのもいいだろうし、生意気なようだがせっかく蝶の世界に足を踏み入れたんだから、アサギマダラだけでなく色々な種類の蝶について知ってほしいなと思った。その上でアサギマダラについて考えてみると、また違った見方も出来るのではないだろうか?
 Mさんご自身も「他の蝶にも興味がある」と言っていたので、今日がその第一歩になってくれればいいなと思った。

 キノコ林道での調査を終え、次に江差に向かう事にしたが、もう一度だけ大安在の海岸の調査。また曇りだしてきていたがアサギマダラの姿は無かった。

砂浜近くのスナビキソウを調査する対馬先生とMさん

 江差に向かう前に、恒例の上ノ国八幡宮で神主さんにご挨拶をしようと立ち寄った。しかし神主さんはどこだかに草刈りに行ってしまったという事で今日はお会いすることが出来なかった。新入部員のYさんもMさんも紹介したかったのに。
 仕方ないので勝手に神社の周りで蝶の調査をさせたが、何も見つからなかったようだ。

神社の周りで蝶を探す部員達

 そしてこれまた勝手に記念撮影をすることにした。手水石にコンデジを置いて12秒のタイマーで撮影。ところがシャッターが切れる直前に部長のYさんが隠し持っていたダンゴ虫を私に投げつけてきた。気持ち悪くて「うわぁ!」と言ったところでシャッターが切れた。それが下の写真。

ダンゴ虫攻撃をしてくる部長とビビる私

 やめろや!
 と、叫んだ。本当にやめてほしい。気持ち悪いんだから。Yさんはダンゴ虫を丸めて「鉄の弾」とか言って見せてくる。あのダンゴ虫の足の数!気持ち悪すぎる。

 一通り文句を言って撮影し直し。やっとちゃんと撮れた。

上ノ国八幡宮で勝手に記念撮影

 神主さんもいないことだし、記念撮影をしたらさっさと江差に向かう事にした。なぜ江差かと言うと、ダイミョウセセリ狙い。狙いと言うか探す。
 去年道南虫の会の前田さんがダイミョウセセリを採集した場所近辺で少し粘ったが全く見られなかった。さっきとは見た目も色も違うゾウムシみたいのがいたのでマクロで撮影した。

ゾウムシみたいの


顔アップ。こういうのが嫌いな人もいるけど、よく見たら可愛い

 少し粘ったけど残念ながらダイミョウセセリは見られず。今回は諦めることにして、乙部町のヒメジャノメがいるポイントに移動した。
 このポイントでは以前にもヒメジャノメが見られたが、時期的には少し早いかもしれない。でもヒメジャノメと言えば北海道では道南地方にしか生息していないし、その道南地方でも最近は少なくなっている印象。自分が高校生の時は茂辺地にも生息地があり、採集して卵を産ませて飼育した記憶もあるが、その茂辺地のポイントでも最近は見られなくなってきたらしい。自分が知るポイントはこの乙部のポイント周辺や上ノ国のみである。

 到着すると、虫の会の前田さんも同時に来てくれた。除草剤で草が枯れていて、対馬先生は「これはダメだ」と言っていた。
 まぁでも他の蝶もいるかもしれないしと思っていたら、前田さんが蛇を捕まえた。アオダイショウだ。怖い!

 アオダイショウには毒が無いと思っていたがMさんが「実は毒がある」と言っていた。奥歯の方で噛まれると毒があるらしい。

アオダイショウ

 部長のYさんが嬉しそうに前田さんからアオダイショウを渡してもらい、捕まえていた。何だろうねこの部長は。怖いものは無いのか?あっ、そう言えば鉄山の林道にあるマネキンの頭が怖いと言っていたわ。

 一年生のYさんもアオダイショウを見て怖そうにしていたが、指で突っついていた。

 ヘビはその後逃がし、ヒメジャノメ探しを再開した。前田さんは帰って行った。

ヒメジャノメを捜し歩く部員達

 ここにいる部員達はヒメジャノメと言っても見たことが無い人がほとんどだと思うので、自分が見つけて採集させようと思っていたが、道の脇の草にはドクガの幼虫がたくさんいてちょっと嫌だった。

 クロヒカゲなどの蝶の姿は見られるけど、ヒメジャノメがいないなぁ〜と思って歩いていると、大きさも色もヒメジャノメっぽい蝶が目に入った。
 「いた〜!」と言って、すぐに部長のYさんに採集させた。止まっていたら写真に撮りたかったけど、飛んでいたので。

 網の中を確認するとまぎれも無くヒメジャノメだった。
 三角紙に入れてもう一頭いないかどうか探した。

 その頃、ちょっと後ろから対馬先生が歩いてきたので、「ヒメジャノメいたよ」と報告すると、ちょっとびっくりしていた。

 よく観察した結果、他に4,5頭のヒメジャノメを見つけることが出来た。

 「もしかして最早記録かも」と対馬先生が言っていたが、数頭採集したヒメジャノメの中には羽化して数日経過していると思われるものもいて、実際は4,5日前には成虫がいた感じ。これは最早記録ではないんじゃないかと思ったけど、後で調べると最早記録を1日更新しているようだった。
 「最初に見つけたのは俺だから、これは俺の記録だね!」と言ったら部長のYさんが「採集したのは私だから私の記録だ」と言い出した。確かに目撃だけじゃ記録にならないんだろうけど、自分が見つけたのをYさんが採集してヒメジャノメだったんだから、一番早く見つけたのは俺だ!と、思ったんだけど、ルール上、撮影か採集しないとダメらしいから今回は譲ることにする。ってか、別に自分が記録更新者になりたい気持ちは全然なく、むしろ部員達が記録保持者になってくれたほうが嬉しい。
 
 この春にモンキチョウを見つけて部長のYさんに採集させたのも最早記録だったことがあり、部長は今年2種類の最早記録を更新したことになる。

 心の中では1年生とかが記録更新したほうが励みになるからよかったんだけど、部長のYさんの採集に対する情熱は結構なもんだからこれも仕方ないか。先に採った奴の勝ちだ。

 そんな事を部長のYさんと言いあいながら諍い(いさかい)を起こしていたら運よくヒメジャノメが草に止まったので写真撮影することが出来た。ラッキー!

ヒメジャノメ

 このヒメジャノメの珍しさは自分は☆☆☆☆☆だと部長のYさんに言っていたら対馬先生は「星5つは無いだろう」と言うような事を言い出した。対馬先生の意見は☆☆☆☆か☆☆☆位だって。

 これは人の主観によって勝手に決めている☆の数だけど、なにか指標を作ってみても面白いかなと感じた。例えば北海道における分布の状況、局地性、見られる時期、発生回数、見られる場所、ポイントでの個体数など。
 よく考えて指標を作り道南の蝶全部に星を考えてみたくなってきた。
 今の自分の主観だけの判断では☆☆☆☆☆はミヤマカラスシジミとかダイミョウセセリ、ゴマダラチョウあたりかな。
 ちなみにミヤマカラスアゲハは☆☆で、スジグロシロチョウは☆である。

 ヒメジャノメは地味な蝶で素人の人なら蛾だと思われてもおかしくないかんじなので、こんな地味な蝶に大喜びしている私を1年生のYさんはじめ他の部員はどういう印象を持ったかな?
 東京のMさんもきっと、何でこんな蝶を珍しがっているのか不思議だったんじゃないだろうか?

 アサギマダラが見られず、ダイミョウセセリもダメだったので、乙部で目的のヒメジャノメを見つけることが出来たのは成果だったと思う。

 帰りにはトラピストに寄り、Mさんにソフトクリームをごちそうになった。

トラピストのソフトクリーム

 部活動は解散したが、Mさんが東京に戻る飛行機にまだ時間があったので、自宅に来てもらい、色々お話したり蝶の標本を見てもらったりした。

 時間になり、家を出て妻と3人でラーメンを食べ、ここでMさんともお別れすることになった。

 昨年初めてMさんとお会いし、生物部の活動に参加するのをとても楽しみにしておられたが、人見知りでなかなか話せない部員達との活動にどういう感想を持ったか、ちょっと怖くて聞けなかった。
 天候が悪い予報の中、キノコ林道では奇跡的に晴れ、汗ばむ活動をすることが出来たのは本当に良かった。

 機会があればまた是非活動に参加してもらいたい。